岩手県の内陸南部に位置する奥州市は、平成19年11月30日現在の人口129,516人、世帯数42,952世帯、面積は993.95kuの都市です。
岩手県奥州市・紫波町位置図
平成18年2月20日に水沢市、江刺市、前沢町、胆沢町及び衣川村の5市町村が合併して奥州市が誕生しました。
市内には農地が多く、稲作を中心とした複合型農業により県内屈指の農業地帯となっています。また、交通の利便性の良さを背景に県内でも屈指の商業集積が進み、工業団地等が整備され、伝統産業や基幹産業の事業展開が図られています。
平成17年国勢調査の年齢構成を見ると、年少人口(0〜14歳)が13.8%、生産年齢人口(15〜64歳)が59.3%、老年人口(65歳以上)が26.8%となっており、県全体の平均と比較して老年人口が高く、年少人口、生産年齢人口の割合が低くなっています。一般世帯数は増加傾向にあるものの、1世帯人口は3.15人で減少傾向にあり、核家族化の進行と高齢者のみの世帯の増加が見られます。
旧水沢市役所が市役所本庁・水沢総合支所となっています
(1)住基カード複合型サービスによる住民サービスの充実
合併前の旧水沢市では「住民に対してどんなサービスが提供できるのか、そして、使ってもらえるサービスとは何か」を基本的観点として住民サービスの向上に取り組んでいました。
奥州市の住基カード活用や自動交付機の導入などによる住民サービス向上の取り組みは、旧水沢市で取り組んできた非接触型のICカードによる市民カード「Zカード」と情報キオスクを活用した住民サービスを受け継いでいます。
センターが実施する「ICカード標準システム実証実験事業」の実験自治体として平成13年度に指定を受け、実証実験を実施しながら、Zカードを住基カードに移行するための整備を進め、平成15年8月の住基ネット2次稼働に併せて、これまでのZカードで提供してきた自動交付、図書検索予約、施設予約サービスを継承するとともに、ICカード標準システムのサービスと新規に開発した市立病院再来予約サービスとを加えて、下図のように、住基カードの複合型サービスとして提供を開始しました。このうち、証明書交付サービス(住民票、印鑑登録証明書、各種税務証明)、申請書等自動作成サービス、健康情報照会サービス、救急支援サービス、公共施設予約サービスをLGWAN-ASPによりサービス提供しています。
住基カード交付申請人数 8,888人(対人口比:6.86%、人口129,516人)(平成19年11月30日現在)
複合型サービス申込状況
住基カードへの移行にあたっては、Zカードで提供してきたものと比較してサービスが低下しないように配慮しました。なお、Zカードは、平成16年3月31日まで並行稼動を行い、その後に廃止しています。
「どこでも、簡単に、そして安く利用したい」という住民の要望に応えるため、従来からカードで提供するサービスは、インターネットからの利用をできるだけ可能にする方針でシステムを構築しました。ICカード標準システムについても、証明書等自動交付以外のサービスをインターネットからも利用できるようにしています。
図 奥州市における住基カードの利用形態
(2)ICカード標準システムの共同利用開始
奥州市では、LGWANを活用してICカード標準システムを周辺市町村と共同利用することにより、経費の節減と証明書等の広域自動交付や公共施設等の広域利用を可能にすることを目的にLGWAN-ASPの環境を整備しており、平成18年度から紫波町がこのLGWAN-ASPの利用者管理システムを利用して、証明書等の自動交付サービスを提供しています。
この共同利用に関連して、平成19年8月に岩手県主催のセミナー「住民基本台帳カードを利用した自動交付機導入検討会」を実施しています。1回目は奥州市と紫波町の共同利用の取り組みの事業説明、2回目はそれに対する質問や討論会を行いました。県内18市町村の参加もあり、関心の高さがうかがわれます。県域に広く住基カードを普及させ、県民の利便性を向上させるための県内自治体間での共同事業や今後活用可能な方策の検討を、岩手県を中心として始めています。この取り組みに関しては、必要に応じセンターも参加しています。
また、現在実施している紫波町との共同利用のように、隣接していなくてもネットワークさえつながっていれば共同利用が可能であり、コスト削減のメリットを得られます。さらに、参加団体が増えることにより隣接する自治体同士による交付エリアの拡大のメリットも大いに期待できます。
この取り組みは、本市以外の市町村が新たに住基カードを利用したサービスシステムを導入する際のコストが縮減できるだけでなく、さらに、広域的なサービスが行われた場合には、本市の住民も含めた地域住民の利便性が向上し、共同利用する各市町村の住基カード普及促進への効果も期待できるものです。
図 紫波町との共同利用の形態
通信回線については、当初岩手県が敷設した岩手県情報ハイウェイを利用して北上市、花巻市、水沢市でネットワークを組み、公共施設予約と申請書自動作成システムの共同利用実証実験に取り組みました。その後、県下の全市町村が接続されているLGWANを利用することで、通信回線の経費が専用回線を利用するよりも安価になると考え、LGWAN-ASPを利用したシステムの共同利用を行うための環境を整備しました。
LGWAN-ASPによるサービス提供者としては、これまで旧水沢市や他の市町村が、各種システムの運用を委託している社団法人胆江農業管理センターにシステム機器一式をすべて移設し、運用を委託しています。
(3)ICカード標準システム共同利用のメリット
共同利用に参加する自治体にとって、単独で自動交付機の設置導入をするより割り勘効果で導入費用、運用費用が安価になります。
また、この共同利用事業のよいところは、広域交付の場合、自ら自動交付機を導入しなくてもその住民がメリットを享受できるという点があります。隣の自治体や拠点となる市に自動交付機が導入されていれば、自分の町の住民が隣の市に仕事に行っている途中や買い物のついでに証明書の交付を受けることができます。
また、システムなどのハード面での共同のほか、情報交換や後述する「住民基本台帳カードの多目的利用普及促進広報事業」への取り組みなどソフト面での共同運営ができることも大きなメリットです。商店等の特典等のサービスやポスターの共同作成・利用、ラジオCMなどについても情報交換をしながら事業を進めています。
水沢総合支所の自動交付機
市内には計8ヵ所設置されています
(4)一括発行機能によるカード発行の時間短縮と省力化
奥州市ではカードアプリケーションの搭載のため、住基カードの発行に時間がかかることを考慮し、即日交付を行っていませんが、住基カードの普及に伴い発行枚数が増加しており、発行担当者の負担軽減も課題となってきました。
この課題解決のため、平成18年度にICカード標準システムのバージョンアップにより一括発行機能の追加を実施しました。カード発行時に多目的利用の設定を同時に行うことができ、カードセット後は自動で発行まで行います。現在は、1か月あたり約300枚が発行されており、一括発行機能がなければ発行の専任職員を配置してもカード発行作業にかかりっきりとなってしまいますが、この機能を追加したことにより、発行申請書のチェックやその他業務に時間を充てられるようになり大幅な省力化が図られています。
図 一括発行機能の業務の流れ
(5)登下校通知システム実証実験の実施
平成18年度に公的個人認証サービスの一層の普及を図るために市立小学校において、臨時市民課窓口を設置して公的個人認証の電子証明書と住基カードを交付し、3年生の児童とその保護者合計200人を対象に、公的個人認証用電子証明書と手のひら静脈認証による本人確認を活用した登下校通知システムの実証実験を実施しました。
このシステムは児童が登下校した時刻等の通知メールを保護者が受信することにより、児童の登下校の状況を確認することができます。また、学校側は職員のパソコンで児童が登校しているか否かを把握することができ、異常時の認知と対処を迅速に行うことが可能となります。さらに、住基カード(電子証明書)と静脈認証を利用することにより、成りすましの防止と認証の迅速化が実現されます。
住基カードの普及促進の効果としても、保護者説明会や各種報道機関の記事等で広く住民一般に住基カードの安全性と奥州市が提供している住基カードを活用した各種のサービス等について、情報提供ができました。
(6)民間企業等との連携により、さらに普及啓発する取り組み
従来実施している住基カード複合型サービスに加えて、さらに日常生活の中で利便性や特典を実感できるよう民間企業等との連携や協力を得て、普及啓発を図っています。
事業内容は、本事業の趣旨に賛同いただいた民間企業等46社が、自らが運営する施設等において、住基カードを提示した住民に、参加企業等が自ら定めた、入場料金、施設利用料金等の割引、商品提供等の特典を提供していただき、「広報おうしゅう」等により本事業に参加する民間企業等の名称や提供サービスの内容等を住民に周知し、住基カードの普及、住民生活の向上、地域経済と地域活動を活性化する取り組みを実施しました。
(7)住基カードの多目的利用普及促進広報事業
住基カードを活用したサービスを知ってもらって、そのサービスを多くの住民に利用していただくため、広報用ポスターや全戸配付チラシ、広報特集記事、広報用ビデオなどの制作、ラジオCMの放送など、積極的な周知と住基カードの普及と多目的利用の促進を図っています。
広報ビデオは、市役所に来た方に観てもらえるように、本庁と支所の5か所の市民ホールのモニターにエンドレスで放映しています。また、インターネットでも視聴できるよう環境を整備する予定です。
広報用ポスターは紫波町と共同制作し、お互いの庁舎や商店街などに貼り広くPRしています。全戸配付チラシについては、申請書と返信用封筒をあわせて配付し利用申込みを促進しています。
広報誌11月号掲載の記事
(8)今後の課題等
さまざまな実証実験を行い住基カードの普及を行ってきましたが、実証実験で得た意見を考察すると、住基カードや奥州市が提供している住基カードの複合型サービスを認知していない住民が非常に多いことを実感しました。
また、市内8カ所に設置された証明書等自動交付機で証明書発行サービスを行っていますが、住民一人当たりでは、年間1枚にも満たない状況ですが、一方では、市役所の閉庁時間に簡単に早く交付を受けたいという要望もあります。奥州市としても年間十数万枚の証明書の交付事務を自動交付機で対応することは、業務の効率化に効果があると考えています。
このような状況で自動交付機の稼動率を上げるためには、できるだけ早期に住基カードを普及させ、証明書等自動交付機を利用できる住民を増加させる必要があります。
また、共同利用については、奥州市では引き続き岩手県や県内市町村と協力していくことを考えています。住基カードを利用した各種サービスの広域化による住民の利便性向上と、参加団体の経費削減を実現するためにも順次共同化に取り組むのではなく、ある程度の規模でまとまって取り組み始めるよう働きかけていく考えです。
(9)まとめ
奥州市ではICカード標準システムを活用した各種サービスや病院再来予約システムなどの独自システムで行っているサービスをはじめ、民間企業と連携した普及啓発、広報事業など、住民サービスの向上のための住基カードの有効活用に取り組んでいます。また、一括発行機能や広域交付システムの導入による業務効率化や経費削減を図り、行政運営にも取り組んでいます。
今後も岩手県内の共同利用に向け、岩手県と県内市町村と協力して取り組んでいきます。この取り組みは全国的にも参考になる事例です。奥州市では、住民にも職員にも「使える」住基カードの普及のため、さまざまな事業に積極的に取り組んでいます。