

“IT先進市”が挑むさらなる飛躍、
住民基本台帳カード普及率30%を目標に
古くは万葉集に葛飾の手児奈(てこな)の伝説が詠まれ、国指定の史跡が多く分布するなどの歴史的背景を持つ市川市は、過去から現在まで多くの文化人が活動の拠点としてきたことでも知られます。江戸川を隔てて東京都に隣接する利便性と緑や水辺に恵まれた自然環境の両方を兼ね備え、人口約45万人(平成19年3月現在)を擁する文教・住宅都市として発展してきました。
一方、市川市には“IT先進市”としての一面もあり、市の公式ホームページ「いちかわシティネット」や専用情報端末及びインターネットで利用できる行政情報サービス「360+5情報サポート」など、地域情報化と電子行政サービスの充実に対する積極的な取組は全国の関係者から高く評価されています。
住民基本台帳カードの多目的利用にもいち早く着手し、証明書の自動交付や印鑑登録証機能、申請書自動作成などに活用しています。
しかし、住民異動が重なる年度末の窓口混雑の緩和など住民サービスをさらに向上させるためにはカードの普及率が不十分として、平成18年10月から全庁をあげてのカード普及キャンペーンを開始しました。
市川市役所の本庁舎。年度末の住民異動の時期には多くの来庁者で混雑する
(1)住基カードの普及促進と自動交付サービスの拡充
住基カードを利用した電子行政サービスは市民及び行政の双方にとって大変有効であるにもかかわらず、市川市におけるカードの利用者はまだ少ない。今後、行政サービスの利便性を高め、行政事務の効率化を進めるためには、カードの一層の普及が不可欠との判断に至りました。
そこで、住基カードの利活用に関する調査研究や実証実験を行い、市民にとって利便性が高く実現性の高い施策についての検証を続けました。また、約3,000人の市民に対するアンケート調査では、コンビニや駅などで証明書の交付を受けたいと思っている人が全体の72%で最も多いという結果が出ています。
世界的に電子自治体のモデルケースとして取り上げられることが多い韓国・ソウル特別区の江南(カンナム)区に職員を2年間派遣して、先進的事例と有効性の調査研究を行いました。江南区では、区役所はもちろん地下鉄の駅、デパート、銀行など人が集まる場所に行政キオスク端末と呼ばれる自動交付機が設置されています(平成18年3月末現在で61台)。
市川市では検討の結果、住基カードの交付手数料を無料化する普及キャンペーンを行うとともに、自動交付機を17台増設してサービス内容の充実を図ることを決定しました。普及キャンペーンは平成18年10月にスタート。10月1日から翌年度末(平成20年3月31日)までに住基カードの交付申請をすると、通常手数料500円が無料となります。
広報紙とホームページのほかポスター、CATV、FMラジオなどを利用した広報活動に力を入れ、庁舎ロビーには住基カードの普及促進員を配置して来庁者に対する説明と申請受付を行っています。このほか、イベントなどに職員が出向く出張窓口を開設する予定です。
また、それまで本庁・支所・出張所など6か所に各1台設置されていた自動交付機は、本庁と支所に各1台増設するほか公民館などの公共施設にも新規に設置。平成19年1月4日から、市内21か所で計23台を稼働させることとしました。平成20年には、市内にある鉄道の駅6か所にも増設して稼働を開始する予定で、将来的にはコンビニなど民間インフラを活用したサービス体制の確立も検討されています。
自動交付機の増設にあわせ、従来からの住民票の写し及び印鑑登録証明書に加えて、税証明6種類(市民税課税証明、非課税証明、納税証明、固定資産税評価証明、公課証明、納税証明)と、福祉サービス利用券2種類(はり・きゅうマッサージ施術費助成、福祉タクシー利用券)を自動交付サービスの対象に追加。自動交付手数料も250円(窓口交付は300円)に減額しました。
同時に、既設6台を含むすべての自動交付機に24インチモニターを設置し、インターネット放送でさまざまな地域行政情報を提供するモニター映像サービスを開始する予定です。今後は、市からのさまざまな証明書を自動交付機で受け取れるサービスや電子地図といった機能の追加も予定され、自動交付サービスのインセンティブを高めていく計画です。

本庁舎ロビーの自動交付機の脇には住基カードの申請受付を開設。
支所・出張所でも同様のキャンペーンを行っている
(2)印鑑登録カードの切替えで普及率30%を目指す
「住基カードを利用した自動交付は、将来の電子申請と電子交付に結びつく有効なシステムです。本来なら、複数自治体の共同運用による広域交付が望ましいのですが、とにかく窓口に並んで待つ必要がない。また、コンビニなどの民間施設での電子交付へと発展させることもできる」と、CIO 情報政策監の井堀幹夫氏は語ります。「ただし、住基カードの普及率は現時点で人口の3.41%、15,496人とまだ低い。まず、これをもっと増やそうというわけです」。
電子行政サービスに欠かせない厳密な本人確認の手段として住基カードは最適といえます。ただし、地方自治体間で連携して多目的サービスを提供する場合には使いにくい面もあり、広域連携が思うように進まないといいます。
そこで市川市は、約25万人いる印鑑登録者の印鑑登録証(プラスティックカード)を住基カードに切り替えることに期待を寄せています。平成19年度には、すべての印鑑登録者に住基カードへの切替え手続きに関する通知を送付し、市内の各駅への自動交付機設置や、住基カードを利用したサービス内容を充実させることで、普及率30%の達成を目指したいということです。
(3)キャンペーン効果で住基カード発行枚数が10倍に
平成18年10月の普及キャンペーン開始後、住基カードの発行枚数はそれまでの1ヵ月200枚前後から1,000枚ペースに急増し、平成19年1月の自動交付サービスの拡充後はさらに増えて、1ヵ月の発行枚数が2,000枚を突破。10月から3月までの累積発行枚数は7,275枚を記録しました(3月12日現在、163日間の累計)。
平成19年1月8日の成人式では、式典出席者を対象にチラシ2,500枚を配布し、現地で写真撮影付きの申請受付を実施したところ、101人の申請者がありました。また、3月28日には、1日の申請者数が226人という過去最高を記録したといいます。住基カードの発行は、カード発行機4台に専任スタッフ3人を配置して当たっていますが、毎日フル稼働の状況が続いています。
自動交付機の利用状況について推移をみると、利用者数はそれまでの1ヵ月50人前後が10月以降は100人前後に、既設・増設を合わせた計23台の利用状況では、1月には200人以上に急増し、3月には300人を突破すると見込まれています。
福祉利用券の利用はまだこれからですが、これはほとんどの利用者が既に平成18年度分を申請済みのためで、新年度に入ってから、平成19年度分の交付について自動交付機の利用が増加すると期待されています。
中央図書館などがある生涯学習センター「メディアパーク」にも自動交付機を設置。
右側は「360+5情報サポート」の情報端末
(4)住基カードと自動交付サービスの普及を妨げる壁
大成功にも見える普及キャンペーンですが、「住基カード普及の障害となっているのは、抵抗感や嫌悪感だけでない」と、情報システム部参事の日下保裕氏は指摘します。「カードを持っていれば使うことは確実なのに、申請と交付の手続き上の問題も大きい」。
住基カードの交付申請者に対しては、本人の住所に「住民基本台帳カード交付通知書兼照会書」を郵送し、その後申請者本人が窓口に出向いて交付を受けなければならないので、カードの発行には申請から1週間程度かかります。
臨時の申請受付などで「申請したい」との好反応があっても、交付のためにもう一度市役所の窓口に行かなければなりません。現状では、申請については郵送による申請ができますが、交付は本人または法定代理人が窓口に出向いて暗証番号の設定をする必要があります。
「例えば本人限定郵便で送れないのかという声は結構あります。銀行など金融機関のカードは本人限定郵便などで受け取れますから。」(井堀氏)。
また、人が集まる便利な場所に自動交付機を多数設置することは、住基カードの普及を促進する上でも必要不可欠ですが、「自動交付サービスを拡張する際の費用が高すぎる」という感は否めません。
自動交付サービス導入に要した費用は、年度別にみると、システム構築費が平成15年度588万円、平成16年度840万円、平成18年度5,082万円、機器賃借料が平成16年度1,014万円、平成17年度2,525万円、平成18年度5,550万円でした。このほかに、システム運用費用が平成16年度153万円、平成17年度523万円、平成18年度2,587万円となっています。
井堀氏は、「特定ベンダに依存しない環境づくりが今後の大きな課題。マルチベンダ環境によりコスト削減を徹底する必要がある」と強調します。
さらに、関係部門による連携も今後の課題として残ります。証明書等の自動交付サービスは窓口業務にかかわるすべての部門が関係しますが、今回のシステム導入に当たっては、第一段階として、住民登録や税、福祉に関係する部門を中心に関係者が集まり、窓口サービスの利便性向上について協議しました。
全体の構想や方針については、情報システム部と市民生活部からの企画提案や市長からの指示を受けて行政経営会議などで協議して決定し、全部門に協力と利活用の推進が指示されました。
(5)住基カードの可能性拡大と広域サービスの実現を目指して
「住基カードは、さまざまな行政サービスにおいて効果的な活用ができる多くの可能性を持っています。現在、災害時における安否確認や救急活動支援も検討中です」と井堀氏は述べています。
自動交付サービスについては、将来的に設置場所の再評価と見直しを行ったうえで移設や増設を検討し、サービス内容も順次追加して電子交付の拡充を図りたいということです。
また、自動交付機を近隣自治体と共同利用する地域ネットワークを確立する構想もあります。同時に、民間インフラを活用し、市川市エリアを越えたコンビニ証明書発行サービスの展開など、広域サービスの実現を目指しています。
「その前提として、住基カードを普及させることが必要」と日下氏は念押ししますが、現在のペースで住基カードの発行が続けば、市川市のカード発行枚数は全国の市町村で最大となる勢いです。“IT先進市”の今後の動向は、最先端の挑戦として引き続き全国の注目を集めることでしょう。