

「ISMS認証取得のために行ったリスクアセスメントでは、適用範囲であるIT推進課全職員の協力を得て、保有する3,000以上の情報資産の洗い出しを行いました。その後、洗い出された保護すべき情報資産を、種類や価値などに応じて約70のグループに集約してリスクの分析と評価を行いました」と、藤沢市 企画部 IT推進課 主幹の須山純子氏は話す。「規程類についても、既存のセキュリティポリシーとの整合性の確認や一部内容の見直しを行い、規程や要綱の新規作成に当たっては、自治体特有の表現などに一言一句の確認が必要でした」。
ISMSを全組織に浸透させるためには、情報セキュリティポリシー、同基本方針、服務規程、文書規程など既存の関連規程との整合と統合を図る必要があり、膨大な時間と労力が費やされたという。
しかし、苦労や困難はあったものの、ISMSの認証取得により「組織の情報セキュリティ管理体制の整備が図られ、また組織の情報セキュリティの体質強化ともなり、対外的にも信頼性を向上させることにつながったと考えています」(須山氏)。
このほかにも、藤沢市では情報セキュリティに関連する先進的施策に積極的に取り組んできた。
2006年に、サーバベースのコンピューティングシステムを導入することで、パソコン端末自体にはデータが残らないようにし、パソコン使用時には指紋による生体認証を行うようにした。シンクライアントの導入は、サーバによるアプリケーションやファイルなどの一元管理を可能とし、運用・管理コストの削減にもつながった。
2007年には、大規模災害など不測の事態発生時における情報システムの業務継続性を確保する、藤沢市情報システムに関する業務継続計画(IT-BCP)<地震編>策定に着手。緊急時対応訓練も定期的に実施し、実施結果を予防措置としてフィードバックさせている。
情報セキュリティに関する集合研修は、階層別・職種別にきめ細かな研修プログラムを設定し、「コンピュータ利用管理者」と「IT推進リーダ」に対してはそれぞれ1回2時間、年3回の研修を実施。事務職や消防職員に対する新採用職員研修、独自システム導入課を対象とする職員研修、保育士及び行政職II表職員を対象とする研修など、さまざまな切り口から最新の情報をテーマとした研修を行っている。
「いつでも必要なときに、何度でも繰り返し」受講できるeラーニングも活用している。情報セキュリティ研修は必修で、コンテンツの各章ごとにテストがあり、100点をとらないと修了できない。最後に次年度へ向けたアンケートのすべてに回答して初めて研修を修了することができる。2007(平成19)年度の研修対象者は2,308人で、受講率は100%だった。
「IT推進課では、2002(平成14)年度から『パソコンセキュリティ実態調査』を行っています。当初は、個人持ち込みのパソコンがないか、承認外の外部機器が接続されていないか、パスワードのメモが貼付されていないか、などのチェックを連絡なしに該当課へ出向いて行うので、結構嫌がられていたようです」と、須山氏は笑う。現在はシンクライアントが導入されているので、業務系システムとシステムを独自に導入した課のパソコンの実態調査に焦点を移し、事前に調査対象課によるセキュリティの自己採点をしてもらったうえでヒヤリングと調査を行うようになった。「情報セキュリティで重要なのは一人ひとりの意識だと思います。セキュリティは自らを守ることでもあり、目標管理は各課で責任を持ってもらうことが必要です」。
また、藤沢市のセキュリティレベルをISMS認証基準まで引き上げることができた重要な要素として、須山氏は「トップの理解があったこと」を挙げる。市長と副市長の理解に加えて、全庁での取り組みとして情報セキュリティの向上を図ったことが、事業の推進を後押しし、財政的な裏づけを得ることにもつながったという。ここには、他の自治体の参考となる重要なメッセージが含まれているといえるだろう。
(本稿内容は2008年4月末 現在のものです。)
識者コメント
島田 達巳(しまだ・たつみ)/摂南大学経営情報学部教授、 博士(経営学)
藤沢市は、積極的な情報公開と市民との対話、市民主体の自治を実現させるツールとしてITを活用しています。行政効率を上げるための情報化投資についても十分な検討、全体最適を図る横断的組織体制、市民も交えた評価体制を敷いて住民の要望に適った情報化政策を行っています。
摂南大学経営情報学部のわれわれの研究室では、以前から情報化の進展度について、全国の自治体を対象に実態調査をしていますが、同市はランキングでは毎年トップクラスで安定しています。直近の2007年度調査では、市・特別区で総合1位、庁内情報化部門、情報セキュリティ部門1位、行政サービス部門2位という輝かしい結果となっています。
今回事例に取り上げられた情報セキュリティ向上のための取り組みも充実しており、これから取り組む自治体のモデルとなっています。特に、ISMS認証取得を2ヵ年で計画し、全庁的に運動として展開し、職員の意識改革を図りつつ導入し定着させたことは特筆に価します。CIOのトップと推進部門、そして原部課との協働の成果です。今後は、情報セキュリティについてのPDCAをフル回転し、更に高い目標に挑戦して欲しいものであります。