
最後の清流・四万十川が流れ、日本の原風景のような集落が点在する四万十町。こののどかな光景の町で、行政の情報化に意欲的な試みが続けられている。セキュリティの向上とTCO(総所有コスト)の削減を目的としたシンクライアント・システムの導入だ。「平成の大合併」にともなう合併作業の負担などもあり、万事が順調だったわけでない。しかし、一定の評価が得られる水準には達した。セキュリティと利用効果の両立を実現する四万十町の実験を追った。

四万十町(しまんとちょう)
| ■位 置: | 高知県南西部の高幡地域に位置する。北東部は愛媛県に接し、南東部は土佐湾に面している。四万十川とその支流が町域内を縦横に流れ、町域の87.1%を山林が占めている。 |
|---|---|
| ■面 積: | 642.06km2 |
| ■人 口: | 2万956人、世帯数8,801世帯(2007年2月1日現在) |
| ■沿 革: | 1955年(昭和30年)1月に窪川町、東又村、興津村、松葉川村、仁井田村が合併し、新町制による窪川町が発足。一方、十和村は1957年(昭和32年)8月に十川村と昭和村の合併によって発足した。2006年3月20日、窪川町、大正町、十和村の合併によって四万十町が誕生した。 |
高知竜馬空港から車で約2時間、四万十川の水で育った特産の「仁井田米」などを販売する道の駅「あぐり窪川」を過ぎると、2006年3月に発足した四万十町役場はもうすぐ。この本庁舎は、旧・窪川町役場の建物で、四万十町の町域全体から見れば東部に当たる。蛇行する四万十川本流に沿って、さらに西に進めば、旧・大正町役場だった大正総合支所、旧・十和村役場だった十和総合支所がある。本庁舎から十和総合支所までは、車で約1時間かかり、淡路島より広いという四万十町を実感できる。
合併前の旧3町村が、シンクライアント・システムに取り組むきっかけになったのは、2004年4月に高知県電子自治体推進協議会が設立され、高知コミュニティ・データセンター(高知CDC)が様々な実証実験に取り組んだことによる。「電子申請」や「IT調達」など7つのワーキンググループ(WG)により進められた実証実験の1つに「シンクライアントの利用」があった。シンクライアントWGに名乗りを上げたのが、高幡地域の4町村。つまり、高岡郡の窪川町と大野見村、幡多郡の大正町と十和村だった。
情報化・電子化の必要性に迫られる中、独自の取組みを行えるだけの余裕がなかった4町村は、もともと情報担当者同士の交流があり、それぞれがテーマを決めて取組みを行い、その成果を共有しようという考えがあった。このため、シンクライアントWGの実証実験についても、役割を分担して行うという方式のためスムーズに受け入れられた。
サン・マイクロシステムズの「SunRayウルトラシンクライアント」を実験用に設置したのは、窪川・大正の両町と十和村の3町村。大野見村はテーマが重複することから、端末は設置せず、逐次、情報提供を受ける形となった。3町村のテーマは、窪川町が高知県新情報ハイウェイを用いた教育現場での利活用、大正町が次期庁内LAN端末をにらんだ庁内システム、十和村が住民公開用端末のあり方を探る、というものだった。
旧・窪川町役場出身で四万十町企画課電算情報係主幹の坂本仁氏は、教育現場の利活用をテーマに選んだ理由として「他の自治体も同じだと思いますが、教育現場の端末は学校によってOSのバージョンが違ったり、古いバージョンだったりするため、セキュリティ対策に手をつけられていなかったことが理由の1つです。また、子供たちにはコンピュータに接してもらいたいのですが、教職員によってコンピュータの知識に差があるため、うまく操作を教えられないケースが見受けられました。その点、実証実験では、システムのプロの方々に教育サポートをしてもらえるというのも利点でした」と振り返る。
一方、十和村では、2000年に全域でケーブルテレビが敷設され、インターネット接続は無料で提供されていた。このため、住民のインターネットに対する認識は比較的高く、ネットへの加入率は、窪川町と大正町が25%程度だったのに対し、35%というレベルにあった。そこで、住民公開用端末というテーマを選択した。
次期庁内LAN端末をにらんで、庁内システムでの利活用をテーマとした大正町には、他の町村とは異なる背景があった。1999年に庁内ネットワークシステムを構築する際、「情報の保全と共有化」が課題に上がっていた。当時の情報担当で、現在は大正総合支所産業建設課主幹の國澤豪人氏は「セキュリティの面からも、クライアントで何でもできるのは問題だ、という指示が出されました。それでクライアントのCDドライブを排除する一方で、情報共有のためにファイルサーバーを導入しました。実はこの時にシンクライアントの導入も検討したのですが、価格面や基幹業務ソフトとの適合性などの理由で断念した経緯がありました」と語る。
ただ、この時点から大正町では、情報管理の概念が浸透するようになったのは事実。紙の文書管理も課ごとにキャビネットで共有管理する方法に改まった。情報の保全と共有化を進めたのは、当時の庶務係長で、現在は四万十町企画課長の武内文治氏だ。
「高知CDCの実証実験参加に当たって、シンクライアントWGを選んだのは当然の結果でした」というのは、大正総合支所地域振興課地域振興グループ主事の小野川哲氏。
庁内ネットワークシステムのリースアップが迫っていたこともあり、実証実験は「渡りに舟」でもあった。「もちろん、前回のシステム構築の段階でも検討しており、単独でも進めるという気持ちはありましたが、自治体で導入した事例もなく、コスト算出ができない不安がありました。そこで、実証実験を踏まえることにしました」(國澤主幹)。
もっとも、情報保全と共有化が浸透した結果、セキュリティに対する職員の認識が高まっていたことも見逃せない。